CSRレポートのココに注目 2011 ~特集編~

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CSRレポートのどこに注目して読めばいいのか。トップメッセージをはじめ、特集、ステークホルダー(利害関係者)ごとの取り組み、有識者の第三者意見など、注目したい重要コンテンツは多い。そこで今回は、企業がその年に一番知ってほしいことが反映されている「特集」に焦点を当て、編集部が独自にレビューしてみた。CSRレポートを読む際の参考にしてほしい。


イトーキ「環境・社会報告書2011」

Summary

ローテーションシステム、目標管理制度、研修プログラムの3つの視点から、社員が能力を最大限に発揮できるようサポートしている。2011年度からは、次世代リーダー育成プログラムやグローバル人材育成プログラムがスタート。人材の採用から育成を一貫して行うため、「人材育成部」を発足させている。

Review

入社から3年目までの間に、社員が自ら考え実行し、責任を持ってやり遂げる力を身につけられるよう定期的にフォロー研修を実施している。入社後すぐに直営店勤務となるため、社員が孤立感や疎外感を抱かないようきめ細かくフォロー研修を行っており、離職率の改善に貢献している。


シスメックス「あんしんレポート2011」

Summary

代表的なCSR活動として1)同社が開発し、乳がん診療に貢献してきた「リンパ節転移迅速検査システム」の大腸がんへの適用を厚労省が承認 2)アフリカやアジアなどで医療インフラが未整備の地域に対して、現地の医療機関に検査機器を提供 – の2テーマを紹介。

Review

1)は、大腸がんとリンパ節転移の社会的背景や診断上の課題が分かりやすく解説され、なぜ同社の「リンパ節転移迅速検査システム」が有効なのか理解しやすい。2)は、同社がこれまで取り組んできたグローバルな社会貢献活動が一覧できる内容。補足情報として、どのような方針・目標・計画で提供地域や検査機器を決定しているのかという解説があればなお良かった。


大和ハウス工業「CSRレポート2011 ダイジェスト版」

Summary

CSR活動の推進テーマ「共に創る。共に生きる。」の考えに沿って、「理念」のページで「自然と共に住まう」「社会と共に生きる」「地域と共に守る」の3つの取り組みを掲載。人が心豊かに生きる社会の実現に向け、さまざまな事業に取り組んでいることを紹介している。

Review

取り組み事例の写真を見開きページ全体に使用したレイアウトはインパクトがあり、内容がひと目で簡潔に理解できる。例えば、「自然と共に住まう」では、業界初の「生物多様性宣言」に基づいた町づくりが進む分譲住宅地「グランリーフ羽曳が丘」の住宅と緑の町並みが、自然との共生を印象づける。ただ、写真をメーンにしたため、内容の充実度が低くなってしまった。


中外製薬「社会責任報告書CSR’10」

Summary

特集1は「革新的な医薬品をいち早くお届けするために」をテーマに、創薬研究から情報提供までの新薬開発の流れを紹介。各プロセスに携わる社員が、仕事に掛ける想いを語っている。特集2はCO2排出削減など「地球温暖化防止への取り組み」を報告している。

Review

研究者、開発者、製薬研究者、MRの計5名(MRは2名)が登場する特集1では、各プロセスにおける社員が、それぞれの立場で患者さんに対する想いを語っている。いずれの社員にも共通するのは、患者さん第一の視点と仕事への情熱。それが読み手に良く伝わり、好感が持てる内容だ。また、エピソードを通して具体的な実務内容がイメージでき、就活の参考になるだろう。


帝人「CSR報告書2011」

Summary

ステークホルダーダイアログと、2010年度の主なトピックスを集めたニュースフラッシュの2部構成。今回で5回目となるダイアログは、「中国での環境取り組みはどうあるべきか」をテーマに、中国の環境政策専門家3名、帝人の社員6名が参加し議論している。

※ 企業の利害関係者が集まり、特定のテーマを議論すること

Review

5回目となるダイアログを海外で実施したことに、CSRに対する帝人の決意が表われている。議論の内容もレベルが高く、中国での「環境の最前線」がよく理解できる。例えば、今の中国ではCO2削減より「環境汚染規制」が重要であり、排出物の「総量規制」も重要な環境政策であることなど。帝人の中国法人がどのような課題を持ち、専門家がそれにどう答えているのか、精読をおすすめしたい。


東京ガス「Tokyo Gas Today & Tomorrow CSR・会社案内2011」

Summary

天然ガスをコアとする「総合エネルギー事業」を推進する東京ガス。東日本大震災の発生以降、東京ガスが果たした責任と使命をまとめたトピックス1と、持続可能な未来に貢献するため、エネルギー事業者が果たすべき責任をまとめたトピックス2で構成されている。

Review

震災直後からの同社の動きが時間軸で記載されるとともに、東京ガス管内で地震の揺れが大きかった茨城県日立市や、大津波の被災地である石巻、仙台などでの復旧活動が、現場レポートを交えながら詳述されている。各家庭のガスメーターの復帰方法や、ガスシステム導入による電力負荷の平準化の囲み記事は、読者が今知りたい情報に対し的確に応えているといえる。


日本ハム「社会・環境レポート2011」

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Summary

「『食べる喜び』をお届けするために」をテーマに特集。「お客様視点」で業務に励む営業マンの想いをはじめ、海外で働く従業員の声、海外グループ会社の品質面・環境面に対する取り組み、おすすめ商品の製造工程や商品に込められたこだわりなどを紹介している。

Review

国内外問わず、さまざまな部門で働く17名の社員が次々と登場する誌面は、とても賑やかで親しみを覚える。随所に「環境への取り組み」が記載され、意識の高さも伺える。残念なのは全体の構成が分かりにくい点。例えば、冒頭に商品の流れが図版で示されているものの、登場する社員の順番はランダムで読むときに混乱してしまう。伝えたい情報も少し整理した方が読み手には親切だろう。


ポリプラスチック「環境・社会報告書2011」

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Summary

ポリプラスチックスの顧客である台湾の電子機器受託製造サービス企業Hon Hai社から「戦略的ビジネスパートナー賞」を受賞した。これを受け、Hon Hai社深圳工場の資材調達責任者でディレクターの涂建輝氏にインタビューし、同社に対する評価を聞いている。

Review

Hon Hai社が、同社をメーンの製品供給者としてどのように評価し、「戦略的ビジネスパートナー賞」を授与したのかが詳細に書かれていて興味深い。「目の前のお客様に期待以上の提案・製品で貢献し、それがひいては世界中の方々の幸せにつながることこそやりがいです」という同社のコメントはCSRそのもの。社外ステークホルダーからの声(評価)を積極的に載せているのも◎。


マツダ「サステナビリティレポート2011」

Summary

「環境保全」「人間尊重」「社会貢献」の3つのテーマに関する取り組みについて、現場の第一線で働く社員の声で構成した「ストーリー編」としてまとめている。例えば、「環境保全」では、開発、生産、販売の各現場でさまざまな工夫をしたことにより、環境負荷低減を達成など。

Review

「ストーリー編」というだけあり、読み物として楽しめる内容で、クオリティーの高い写真と、オーソドックスながらシンプルで洗練されたレイアウトにより、「読んでみようかな」と思わせる企画。ストーリー1の「SKYACTIV TECHNOLOGY」の実現に向けた社員の発想力や行動力は、ものづくりの現場でイノベーションが実際にどのようにして起こるのか、という点で大いに参考になる。


ミネベア「ミネベアグループCSRレポート2011」

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Summary

特集1は、小型省エネモーター向け磁石の開発プロジェクトに焦点を当て、技術者5名が奮闘した開発秘話を紹介。また、特集2は、同社グループ最大の生産拠点であるタイのNMBミネベアタイを取り上げ、環境対策や地元の人材育成などCSR活動を紹介している。

Review

どちらの特集も「ミネベアのCSRとは何か?」が良く理解できる内容。特集1は、なぜ効率の良いモーターの開発が社会への貢献になるのか?という問いに明確に答えている。特集2は、同社のCSRの原点と呼べる活動が、約30年前からNMBミネベアタイで実践されており、CSR活動のさらなる深化に期待が高まる。なお、全体的な文字量は少なくないものの、軽妙な筆致が読み手を飽きさせない。


YKKグループ「社会・環境報告書2011」

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Summary

持続可能な社会の構築に向け、4つのポイントを掲載。YKKの精神「善の巡環」に基づいたグローバルな事業展開、一貫生産体制の利点を生かした環境政策の推進、「善の循環」を根底にしたさまざまな社会貢献活動、「自然界との共生」を考えた生物多様性の取り組みを紹介。

Review

YKK創業者・吉田忠雄氏の「善の巡環」は、近江商人の「三方よし」や、松下幸之助氏の「企業は社会の公器である」などの考え方と同じく、CSRの本質に通じる。同社がこの精神に基づき事業を展開し、環境や社会貢献活動を実施していることが端的に分かる内容になっている。ただ、特集としては、いささか迫力不足であり、各テーマをもう少し深めても良かったのではないだろうか。

※レビューした企業は、エコほっとライン企業一覧の中から無作為に抽出しています。
※レビューの範囲は2011年度に発行された冊子での報告のみを対象としています。
※「特集」の表記がないページもあります。その場合は、情報の内容や扱い方を編集部が独自に判断し、特集として選定しています。
※レビューに対する問い合わせには応じられませんので、悪しからずご了承ください。
※五十音順/敬称略

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