第1回 CSRレポートから読み解く企業の未来

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NPO法人 環境市民 堀 孝弘 (ほり・たかひろ)氏

就職活動中の学生の間で、企業選びの基準が少しずつ変わろうとしている。規模や知名度、給与といったこれまでの基準だけではなく、新たなモノサシとして「CSR(企業の社会的責任)」を取り入れようという動きだ。

企業が発行する環境報告書やCSRレポートはどう読めばいいのか、就活にどう活かせばいいのか。学生のCSR就活を応援するNPO法人「環境市民」の堀孝弘事務局長にそのポイントを聞いた。


CSRレポートではトップメッセージが重要

― 学生の企業選びにCSRが注目されているようですが。

堀氏 CSRとは、一言でいうなら「企業の未来への約束」です。将来、どのような社会になっているのか、自社はそこでどのような役割を担っているのかというビジョンを示し、それを実現するために今こうした事業に取り組んでいます―ということをきちんと表明できるかです。学生の中で、こうした企業の姿勢を独自に評価し、企業選びに活かそうとする動きが生まれてきたようです。

― 企業のCSR活動を知るための手段として、各社が毎年発行するCSRレポートがあります。これまでの会社案内とはどこが違うのでしょうか。

堀氏 会社案内は広報することが基本ですから、企業にとって都合のいいことのみを中心に編集する傾向があります。

一方、CSRレポートは企業が発信したいことと、企業を取り巻くさまざまな関係者(ステークホルダー)が知りたいことの両方を組み入れて編集しています。

また、ガイドラインや有識者の第三者意見など外部の声を取り入れ、情報の客観性と公平性を保っています。そういう意味で、CSRレポートをきちんと読み込めば企業の本当の姿に近づくことができると思います。

※ オランダに本拠を構えるNGO GRI(Global Reporting Initiative)が作成する「サステナビリティ・レポーティング・ガイドライン」や環境省の「環境報告ガイドライン」など、レポート作成の基準となるガイドラインが多数存在する。

― CSRレポートを読むときのポイントはどんなところですか。

堀氏 まずは、トップメッセージをじっくりと読んでください。会長や社長といった企業のトップが何を言っているのか。ビジョンを示しているか、それをどのようなミッションで達成すると書いているのか。ビジョンが自社の企業像だけではなく、どのような社会でその企業像を達成するのかという点まで踏み込んでいるかも重要です。

特集で紹介されている活動や、社会性報告、環境報告など企業のさまざまな取り組みは、こうしたトップのコミットメントを実現するために実施されているわけですから、トップメッセージはとても重要です。


CSRレポートを読み込む力を養う

― 昨年、環境市民の主催で「就活にCSR セミナー」を開催されました。流通や精密機器メーカーなど6社を招いて、100人を超す大学生と交流を深められたようですが、どのような意図でこのセミナーを開かれたのですか。

堀氏 毎年、さまざまな企業が特色のあるCSRレポートを発行していますが、私の見る限りではまだまだ本当に必要な情報がオープンになっていないと感じていました。例えば、CSRレポートでよくクローズアップされるものに「障がい者の雇用率」というのがあります。

多様な人材を受け入れ公平で働きやすい職場づくりを進めることが企業には求められていますが、多くのCSRレポートでは法定雇用率1.8%を上回っているかどうかのみに焦点が当てられ、何のためにハンディを持った方を雇うのかという動機や背景、将来の目標などが欠けています。

きちんとした考えに基づいて雇用している企業もあるはずですが、誌面の問題なのか書いていない企業が多い。それでは、その企業が本当に働きやすい企業なのかそうでないのかがわかりません。

― そのあたりを見極めるにはどうすればいいですか。

堀氏 できるだけ多くの企業のCSRレポートを読むことをお薦めします。セミナーで流通3社、精密機器メーカー3社にプレゼンをしていただいたのですが、業界ごとに比較することも有効です。


社会との関わりを大切に

― 就活中の学生へのメッセージをお願いします。

堀氏 「働くこと」の意味を考えてほしいですね。もう聞き飽きた話かもしれませんが、単にお金を儲ける手段と考えるのではなく、社会との関わりという視点を持つことが大切だと思います。つまり、「会社人」ではなく「社会人」になってほしいということです。

― 個人として、社会にコミットしながら働くということでしょうか。

堀氏 自分の仕事が何らかの形で社会と関わることができる、そういう企業に入社できたら言うことはありませんが、仮にそうできなくてもオフタイムにNPO/NGOの活動に参加するという選択肢もあります。

そこで、企業の中とは違う価値観なり考え方なりを身に着けたならば、今度はそれを企業の中に持ち込んでほしい。その人たちが企業の中である程度のポジションを占めるようになったら、その企業をもっと良くしていけるし、変えていくことができると信じています。未来をつくるのは皆さんですから、強い意志を持って就活に臨んでください。

堀氏写真

Profile:堀 孝弘 (ほり・たかひろ)
1959年、京都生まれ。大手電機メーカーで営業を経験した後、85年、京都生活協同組合に転職したことをきっかけに、食の安全、環境や人権について考えはじめる。2002年2月に現職。04年から京都グリーン購入ネットワーク事務局長も兼任するほか、立命館大学産業社会学部・経済学部非常勤講師も勤める。

所属・役職は、2009年9月時点のものです。

Data:NPO法人 環境市民(http://www.kankyoshimin.org/
誰もが参加できる気軽さと、行政や企業との協働事業の推進などの専門性を併せ持った団体として、1992年7月に京都市で設立される。2002年3月NPO法人格取得。「持続可能で豊かな社会・生活」の実現をビジョンに掲げ、以下の五つをミッション(活動目的)として、地域で実践しながら全国で活動している。「エコシティーを創る」「経済をグリーンにする」「豊かなライフスタイルを創造する」「エコロジーな次世代を育む」「世界の人々やNGOと協働する」

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