第5回 企業価値を高めるダイバーシティ推進。CSRレポートで企業のホンキ度をはかる

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田畑 真理(たばた・まり)

グローバル化による市場環境の変化に伴い、企業はいま競争を勝ち抜くための人材活用戦略「ダイバーシティ」に取り組み、多様な人材の確保を進めている。なかでも女性の活用は長年の課題で、たとえば、ジェンダー・ギャップ指数(GGI)※1の2012年データでは、日本は101位とOECD(経済協力開発機構)諸国のなかで下から2番目に甘んじている。安倍政権は、2020年までに女性管理職比率30%以上を目指すとし、各企業も新たな施策を始めるなか、こうした国や企業の動向は採用活動にどのような影響を与え、就活学生は何を求められているのか。大阪ガスで3年間CSR室長をつとめ、今春から人事部に異動し、ダイバーシティ推進に携わる田畑マネジャーに話を聞いた。

※1 ダボス会議を開催する世界経済フォーラムが、135カ国を対象に各国内の男女間の格差を数値化しランク付けしたもの。

ダイバーシティとは?
「多様性」のこと。もともとはDiversity & Inclusion(多様性と受容)という経営戦略のこと。人種・民族の違い、国籍、性別、障がいの有無、さらには個々の価値観や文化的な背景などをお互いに認め合い、受け入れていくことで、新たな価値を生み出し企業の成長を図ることを目的にしている。CSR(企業の社会的責任)でも重要なテーマになっている。


優秀な人材を確保しイノベーションを創出

― なぜいまダイバーシティなのでしょうか。

日本では、2000年に帝人さん、2001年にパナソニックさんが女性活躍推進に取り組みはじめ、2006年ごろから他の企業にも波及していったようです。最近再びダイバーシティが盛んになっているのは、事業のグローバル化と国内の少子高齢化によるといえます。企業は優秀な人材を確保し続け、多様な個性の協働が生み出す価値、つまり、変化への柔軟な対応力やイノベーションを起こす力を養うことがこれまで以上に必要になってきたためです。特に女性活用の面で、日本は遅れています。

― 大阪ガスのダイバーシティ推進について教えて下さい。

この4月に当チームが人事部に新設され、「女性活用はダイバーシティ推進の試金石」と位置づけ取り組んでいます。当社は、くるみんマーク※2を1997年から3期連続で取得するなど法定を上回る両立支援制度が整っていますし、部長2名を筆頭にさまざまな職域で女性社員が活躍しています。しかし、まだ十分とはいえない状況なので、積極的な採用と育成支援により2020年には監督・管理の地位にある女性の比率を倍にしたいと考えています。

※2 次世代育成支援対策推進法に基づく認定マーク。従業員の子育て支援のための行動計画を策定・実施し、その結果が一定の要件を満たす場合に、厚生労働大臣から認定を受けられる。


個々の成長意欲や仕事観を大切にしたい

― 女性の登用が進まない理由はどこにあるのでしょうか。

まず、全体の13%と女性社員の数が少ないことです。2番目は、日本企業共通の課題でもある長時間労働です。一般に企業の人事評価は単位時間当たりの生産性ではなく、その年度中に出した成果の大きさを見ますので、長く働ける人の方が、育児や介護など時間的な制約のある人よりも有利になります。今後は、費やした時間コストにも目を向ける仕組みを考える必要があります。当社でも、効率よく働いてさらなる生産性向上を目指す「スマートワーク」を推進しています。

― 働く女性側の意識も多様化しています。

この夏、若手中心の女性社員を対象にキャリアデザインの個別面談を実施しました。すると、女性を一括りにする時点でギャップが生じること、性差以上に個人差が大きいことが改めて確認できました。上司は個々の成長意欲や仕事観と丁寧に向き合い指導することが大切ですが、部下も上司の期待に応え、自分の意見を受け入れてもらえるように自己研鑚する必要があります。


自分らしいワークライフバランスのもと人間的に成長できれば理想的

― ご自身の職業観を教えてください。

大学に入る前から“経済的に自立していたい”と思っていました。大阪ガスでは、研究所に初期配属され、専攻を活かせる食品・バイオ関連の業務に携わっていたいと考えていましたが、商品開発部に移ってマーケティング調査やwebコンテンツに関わるうちに変わりました。モノを作ることよりも、コトを起こすことの面白さに目覚め、育児休業を経て出向した関係会社でその志向が強まりました。経験したことのない分野の仕事に変わっても、培ってきた知識や人脈は必ずまたどこかで活かせるので、無駄なことやまわり道などないと思っています。

― 女性にとって理想の働き方とは何でしょうか。

女性だから特別扱いされてもよいのは出産前後だけだと思うくらいのバイタリティが欲しいですね。もちろん、男性だから家事や育児に関わらなくてもよいというのも許されないと思います。「ゆるキャリ」「バリキャリ」などと決め付けないで、ワークとライフの双方を自分らしくバランスよく満喫し、人間的に成長したという手応えを得られる職業生活が理想ではないでしょうか。当社では、男女問わず、自ら新しいキャリアを築き、やがて会社経営に携わりたいというぐらいチャレンジ精神旺盛な人を求めています。


多様な人とコミュニケーションし自分を見つめなおす

― ダイバーシティ推進は企業選びのポイントになりますか。

まず、企業選びでは先入観や世間体に振り回されないこと。もっと柔軟に自分の直観を信じていいと思います。そのうえで、CSRレポートでは、企業のホンキ度や正直さをはかるためのポイントがいくつかあります。ダイバーシティの場合、たとえば、会社のトップがそのことに触れているか否か、法定以上の両立支援制度が整っているか、その利用実績はどうか、勤続年数等の雇用関連のデータが経年で開示されているか、など、いくつかの企業で比較してみてください。

― 就活学生へのメッセージをいただけますか。

「知らない人とは話ができない」「専門外には興味がない」などの食わず嫌いは、直せるものなら直しておいた方が良いでしょう。普段付き合いのない人、知らない人との距離を縮めるには、リベラルアーツ(一般教養)を身につけ自分の引き出しを増やしておくことも大切です。

“他人は自分の鏡”といわれるように、性別・年齢・立場の違うさまざまな人とのコミュニケーションから自分の良いところ・改めるべきところが沢山見つかると思います。

田畑氏写真

Profile:田畑 真理(たばた・まり)
兵庫県生まれ。1986年、大阪ガス株式会社入社。研究所、商品開発部を経て関係会社に出向。出向中は、ベンチャー企業誘致、人材育成プロジェクト等に従事。2008年帰社。2010年からCSR室長。レポート編纂のほか、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク等対外活動にも関与。2013年より現職。

インタビュー日時:2013年9月27日(所属・役職は、インタビュー当時のものです。)

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