第4回 CSRレポートで”企業の意思”を読み取る

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大阪市立大学 大学運営本部 就職担当課長 大島 禎 氏

企業の環境配慮活動やCSR(企業の社会的責任)に注目し、会社を選ぶ際の参考にする就活学生が年々増えている。CSRレポートを活用し、企業の実態を多角的に検討することで、業界・企業研究や志望動機の作成などに役立てているという。

その一方で、デフレ経済の建て直しが遅々として進まず、企業の採用状況も厳しく推移する中、CSRレポートをどのように活用すれば就活により効果的なのだろうか。民間企業での企画・人事・総務の経験を生かし、学生の就活指導にあたっている大阪市立大学の大島禎氏にそのあたりのことを伺った。


CSRは企業のことを知るための大切な視点

― CSRを就活の新たな評価軸にする動きがありますが、企業経営においてなぜCSRが重要なのでしょうか。

大島氏 個人に置き換えて考えてみます。職業が成り立つには1.経済的自立 2.自己実現(やりがい) 3.社会的役割の三つの要素が必要だといわれています。これらの要素すべてが満たされてこそ、人は働くことに喜びを感じるのですが、企業活動も考え方は同じです。どの要素が一つ欠けただけでも、企業として長期間存続することは難しいでしょう。

企業は、社会やステークホルダーからの「期待像」に対し、自社が果たすべき社会的役割を「理想像」として設定します。そして、その「理想像」と「現実」とのギャップを埋めていくために経営計画を立てて実行していきます。

一方、社会やステークホルダーは企業の実績を評価し、見つかった課題に対して企業との対話を重ねます。この繰り返しがお互いに信頼を生み、企業の持続的な発展につながっていきます。これがCSRであり、就活で企業のことを知る上での大切な視点になります。

※ 日本労働研究機構(現 独立行政法人 労働政策研究・研修機構)編「職業ハンドブック」より

― 企業研究をする際、具体的にCSRをどう活用すればいいのでしょうか。

大島氏 企業のことを知るためにはCSRレポートに目を通すのが有効ですが、私はその前にまず、有価証券報告書(以下、有報)を見るべきだと学生たちに指導しています。有報は、企業のあらゆる数値に着目する定量と、特性に着目する定性、両方の分析ができる極めて優れたツールで、データを複合的、かつ時系列に見ることでさまざま情報を得ることができます。また、「対処すべき課題」「事業等のリスク」「研究開発活動」をチェックすることで、企業の”これから”、つまり学生が入社した後の企業の方向性をある程度把握することができます。

ただ、有報は提出されたフォーマットが同じであるため、企業間の比較を行いやすいというメリットはあるものの、堅苦しい文章の羅列ですから、企業のイメージが少しつかみにくいかもしれません。その点CSRレポートは、有報の内容を補完し、より分かりやすく編集されていますので、”企業の意思”を読み取りやすいと考えます。


業界を問わず横断的に読んでいく

― CSRレポートでは特にどのコンテンツが重要でしょうか。

大島氏 コンテンツの中で真っ先に読んでほしいのは、経営者自らが経営方針について語った「トップコミットメント」です。さまざまな事業活動の中で、今年度は特にどの活動を重点的に行うのか、3~5年後の中期的展望をどう考えているのかなど、このページから読み取れる情報は重要なことばかりです。

― 読み方に何かコツのようなものはありますか。

大島氏 私はできるだけ多くのCSRレポートを業界にとらわれず横断的に読むことを勧めています。毎朝の通勤電車の中では、多くのビジネスマンが経済新聞などを読んでいる姿を目にしますが、限られた時間ですべての情報にこと細かく目を通しているわけではありません。例えば、見出しだけでも毎日流し読みを続けていると、あるとき情報と情報がつながり出し、ビジネスのヒントになったりします。継続的にさまざまな情報を収集し、蓄積していくことが大切なのです。

CSRレポートも同様で、はじめから業種を限定せずにいろいろな企業を見ていく。すると、業界が違っても同じような課題を抱えていたり、解決へのアプローチもそれぞれの強みを生かしたものだったりと、違いが理解できるようになってきます。


“自責化”で働く意欲をアピールする

― では最後に、就活学生へのアドバイスをお願いします。

大島氏 私は学生に対し、プロフェッショナルとして仕事を行っていくには、”自責化”するWILL(意思)と”論理化”するSKILL(技術)が大切だと話しています。困難にぶつかっても周囲の環境や他人のせいにするのではなく、当事者意識を持って考え行動することができる自責化と、アウトプットを意識しながら情報をインプットし、物事を整理することができる論理化。志望動機を組み立てる上でも、また面接に臨む上でも必要になる能力です。この二つを実践できれば、就活でも良い結果は必ずついてきます。健闘をお祈りします。

大島氏写真

Profile:大島 禎(おおしま・ただし)
1960年2月、大阪府生まれ。私立大学でバブル期から崩壊後の「就職氷河期」に就職支援業務に携わる。日本の人事制度の転換期にあってさまざまな社員研修プログラムを研究、独自の指導プログラムを実践した。その経験を生かし、民間企業に転職。企画・人事・総務部長を歴任し、ビジネスの第一線を経験する。2007年4月から現職。

インタビュー日時:2012年9月4日(所属・役職は、インタビュー当時のものです。)

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